[やってはいけないこと] サバイバルでは危険な脳漿なめし

サバイバルにおいては被服については食料より緊急度が低いのであまり触れていなかった革のなめしについて、日本の知識環境では危険な部分があると感じたので今回は少しそのあたりについて解説したいと思う。

インターネットでなめしについて検索する人々に知識の偏りが生じている可能性に気づいたのはとあるweb小説を目にしたのがきっかけだった。その話の中では主人公が狩猟をし、その皮の活用でなめしをしようとしたとき、なめし用の薬が無いので自然物を使ったなめしとして脳漿なめしを検討していた。そこで私は、「はて、自然物でのなめしならまずは樹皮なめしでは?」と思ったのである。

改めてなめしについて検索をしてみると、「なめし 方法」などのワードで上位に脳漿なめしの実践を行っているページが見られた。これは私も以前に見た記憶があり、恐らくなめしについて調べている人の結構な人数が見ている物と思われる。上述の小説ももしかするとそういった背景があってのものかもしれない。このページは極めて実践的で、また詳細な記述が大変有用なものである。脳漿なめしという方法はかなり古くからの方法であり技術伝承の意味、また最終製品の質からも重要な方法であるということにはなんら異論の無いところである。ただし、脳漿なめしはメジャーな方法ではない。メジャーでない技術にはメジャーになれない何らかの原因がある。

そういった原因の多くは経済的なものである。脳漿なめしも脳漿の性質が一定しないとか脳漿を確保するのが面倒、費用がかさむなどの問題がある。そして、脳漿なめしにはもう一つ大きな問題がある。腐敗しやすい脳漿を利用するという根本的問題である。脳漿はつまりぐちゃぐちゃの脳そのものであるが、これは栄養分と水分が十分にあり、容易に微生物の温床となる。脳を栄養とする菌なりバクテリアというのはすなわち生きている生物の脳も食べるということである。そういったものが大量に繁殖する脳漿を扱うのは大変危険である。警鐘をならす方もいる(脳漿鞣しでおこる健康被害 : オグララ工房雑記)が、なめしにかかわらず方法について解説しているときにはあまりそういった危険について話が向くことは少ないように思われる。

現代では抗生物質の発達と医療の整備が進んだこともあって、そうした方法で事故が起きても死亡することは極少なくなったであろうが、サバイバル時や文明崩壊後などでは大変に致命的であり、危険な方法といわざるをえない。広く無機系やタンニン系のなめしが普及したのはその抗菌性と扱いやすさが寄与している部分も大きいだろう。

サバイバルに応用しやすい古代技術などはインターネットで効率的に調べることが可能になったが、検索上位だけをそのまま飲み込むだけでは不十分なこともある。suvtechを御覧の皆さまには、そこからさらに踏み込んで十分な知識を得てもらいたいと願うところである。

メルクマニュアルで症状と対処を知る

サバイバル時には医療的なサポートが極めて受け難くなることはよく言われているところである。もともと持病がある場合は薬の予備を十分に持っていなければ体調の維持がままならないこともあり、非常時に薬が不足しないように準備しておくことが重要である。

それだけでなく、非常の際には食料・物資の不足から、また災害等による直接・間接的な被害により、栄養失調や外傷、ストレスによる各種症状など、様々な不調に遭遇することが予想される。そういったとき、平時では速やかに医療機関において受診することが一番の対策であるが、非常時にはそういうわけにも行かないことが大半であるので自ら対処する他ない。そういったときに重要なのは知識の有無である。原因の特定と適切な対処が重要であるが、様々な症状とその原因を知っているのといないのでは同じ素人といえども判断の精度が大きく違ってくるものである。

そういったわけで、各種病気や怪我、栄養の欠乏や過剰、中毒症状などを知っておくのがよい。一昔前は家庭用医療百科事典の類を買う必要があったが、現在ではすばらしいものが無料で公開されている。

メルクマニュアル医学百科 家庭版

様々な病気についてかかれてあるが、サバイバル的にはまず応急処置の項を見ていただきたい。それだけでもかなり勉強になるものである。他にも「栄養障害」のセクションと「外傷と中毒」のセクションはサバイバルにかなり有用であると思う。

その他にも軽く目を通しておいて損は無いだろう。かなり分量があり、全てに目を通すのは現実的ではないが、日々の不調を調べて、場合によっては医師に診てもらうことで早めに病気に気づくことが出来れば平時のサバイバル(つまりは健康維持)にも十分に役に立つ。

ネットでの検索やこういった書籍類を調べてばかりで不安になったり、病気を決め付けて受診するのも良いことではないらしいのだが、知識の増強に役立てて病院に行くきっかけにしたり非常時の役に立てたいものである。

サバイバルナイフはサバイバルには向いていないんじゃないかという話

サバイバルの話をしていると、サバイバルナイフの話が出てくる。サバイバルという言葉がついているナイフであるからそれは至極当然というところはあるが、さほどサバイバルについて知らない人々がイメージするほどサバイバルナイフはすごいものではない。少なくともサバイバルに備えるためにサバイバルナイフを用意するというのはいい選択肢といえるものではないだろうと思う。

そもそもサバイバルナイフとはなんなのか。マスコミなどでは大振りのナイフをまとめてサバイバルナイフということがあるようであるが、そういう分類であると戦闘用や狩猟用のみならず格好だけのナイフも含まれてしまう。これは映画などでサバイバルナイフが派手に扱われたために起こった現象だろうが、もとはサバイバルナイフは軍で用いられたものである。他の全ての装備を失っても生存できるように設計されたものをサバイバルナイフともともと呼んでおり、その為にナイフのグリップに小物入れがあったり、方位磁石がついていたり、背に鋸様の刃がついていたりするのである。また、軍での生存とは戦闘での生存も含むため、対人戦闘でも十分使えるように設計されている。

さてサバイバルナイフの設計思想をみると、やっぱりサバイバル用じゃないか、と思うだろうが、しかしその機能を発揮させるのはその為にしっかり訓練した者でないと難しい。そもそもナイフでの戦闘は特殊な技術であり、素人だと長い棒を持って戦ったり石を投げた方がまだ効果がある。またサバイバルナイフに盛り込まれた機能は、一つの機能のために他の機能が使い難くなったりするし、強度にも影響してくる。背中の鋸刃は背に手を当てて工作することを難しくする上にそもそも大振りな刃は細かい作業には向かないし小物の入るグリップは強度が下がりがちになるなど、中途半端な性能であるとも評価されるのである。

それでは訓練されてない一般人は何を持てばいいのかというと、一つのものでなく複数の道具に役割を分担させて用意するのがよい。そもそも一つのナイフに全て収めようとするから無理が出るのであって、無理の無い範囲の機能を盛り込んだ道具をいくつか持つことでこれは解決できるのである。例えば様々な工作はツールナイフの類、大雑把な工作や薪割りなどは斧(小型のものもある)などで効率よく作業できる。またナイフでは難しい穴掘りに小型のスコップを用意するのもいいだろう。そうしたものを、他の小物と一緒に小さなパッケージにまとめてしまえばおおよそサバイバルナイフですることを、より簡単にこなせるだろう。

サバイバルナイフは訓練されたものが、ほぼ裸同然の状態でナイフ一本もってサバイバルするときの装備である。大変見栄えがするものであるが、素人には無理である。無難でやりやすく、しかも効率的な方法で確実にサバイバルに備えよう。

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