私が備蓄で缶詰を重視「しない」理由

防災を意識するとき、食料を備蓄する人は多いと思うが、そうしたときに備蓄するいわゆる「非常食」や「保存食」として挙げられることが多いのは缶詰であると思う。しかし、缶詰が災害時の食料として優秀かどうかについては少し考えなければならないように思う。

私が意識して備蓄している食品のほとんどは缶詰ではない。実のところ非常持ち出し用のバッグに入れている食品は米と乾パンとお菓子類がほとんどで、あとはフリーズドライの食品がいくつかあるだけだ。今日はその理由を挙げてみたいと思う。

缶詰は重い

缶詰はほとんどの場合、調味と製造上の理由などから内部が調味液で満たされている場合が多い。また、食品そのものもそのままの、もしくは加工で失われたあともかなりの水分が残っている。これは、重量あたりのカロリー量を下げてしまい、重いのにさほどの栄養にならないということが多く考えられる。もちろん、水分は生存に必要なのではあるが、水が豊富で得られやすい日本においては浄水器などの水を安全に飲める措置を講じていれば調理などに必要な水についてさほど勘案する必要なく、乾燥食品等に水を使うことができる。

食品の総重量tが軽いことは、それらを持って移動する際に移動しやすいということにつながる。緊急の時には特定の場所にいることにこだわっていてはいけないから、移動のしやすさを保つためにも荷物が重くなることは避けるべきである。

缶詰は高い

缶詰の特集などが組まれているのを見て、スーパーマーケットなどで商品を見て思うに、缶詰は高い。もちろんのこと缶詰は長期の保存が可能である。その長期保存のためにいくつかの工程があるが、そういった工程や検査等が他の食品群と比べて価格が高くなる原因であろうと思う。

生命の安全を担保するための食品であり、価格の高低を言うものでないかもしれないが、価格は安いほうがよく、その分の予算を他の対策に回すこともできる。

実は缶詰ほどの長期保存は必要ない

缶詰の保存期間は賞味期限で3年が可能である。賞味期限はメーカーの保障期間のようなものであるから、それ以上持つと考えてよい。風味を別にすれば10年は食べられるという話もある。

しかしながら、そのように長期の保存期間は必要でない。食料の補給が途絶えたときに備蓄の食糧を食べるわけであるが、その期間は高々1ヶ月前後といったところだろうと思う。その程度であれば他の種の食品でも十分保存がもつ期間であり、それ以上になると新しい保存食への更新の際に毎日のように期限間近の保存食を食べるか廃棄するかしなければならない。

大体においてはレトルトパックが代用できる

前述のように長期保存でのアドバンテージが無い場合であれば缶詰である必要はない。調理の手間が少ない食品であればレトルト食品が豊富にあり、これらを少し多めに用意しておくだけで十分に缶詰の代用となりうる。また、レトルト食品は日常で使うのに十分な価格と味であるから、日ごろ使いながら順次更新していける。

長期におよび更新が望めない場合は缶詰を

缶詰の利点はその保存期間の長さにある。少なくとも3年は更新を必要としないため、特に組織単位での備蓄などで頻繁な更新が不可能な場合には缶詰の保存期間の長さは、その価格や重量を勘案しても十分なアドバンテージとなる。

 

何に置いてもすべてにおいてベストな選択というものはない。なにを重視して選ぶかというのは大切である。備蓄に缶詰を選ぶときには、その機能が本当に必要なのか検討するようにしたい。保存期間や缶の耐久性が過剰ではないか、重くてもかまわないかなどを勘案して適正な食料備蓄を行うことが大事だ。

非常食を3種に分けて考える

災害時の備えとして、非常食を備える方は多いと思われるが、その内容について深く考えたことのある方はどれくらいいるであろうか。多くの方がせいぜいどのくらいの量があれば何日もつかといったことぐらいではないかと思われる。

今回は非常食について考察するために非常食を3種類に分類して、その役目と備え方について考える。

非常時に備えて備蓄する食料は3つに分けることができる。ここではその3つを行動用食料・休息用食料・拠点用食料と呼ぶことにする。それぞれの食品がどれに当てはまるかで、どういう備蓄をしていくかを決定していく。

移動・避難時に食べる食料(行動用食料)

移動時や緊急時に口にする調理の必要がない食料を行動用食料とした。この種の食料は災害直後や帰宅難民となったときに、また、登山などにおいて遭難などしたときに必要とされるだろう。避難時、遭難時には過大な重量物を持って体力を消耗するわけには行かず、しかしながら必要なエネルギーを短時間で摂取しなければならないので軽量で調理の必要のない食糧が望ましいのである。

具体的な例で言えば、チョコレートや乾パンなどが非常食マーケットで有名である。他にもクッキーやビスケット、カロリーメイト等のカロリーバー、金平糖や氷砂糖などの糖質の固まり、極端に言えばカロリーの高いお菓子全般がこれに当てはまる。ただし、スナック菓子は重量とカロリーは申し分ないが、パッケージが大きく持ち運びに不便が大きいのであまり適当ではない。

こういった食品は主に非常用の持ち出し袋や帰宅支援バッグ(帰宅難民が背負って帰るようなバッグ)に入れたり、普段から一定量持ち歩いたりするとよいだろう。カロリーメイトの1パッケージ程度ならさほどかさばることなく備えておける。

一息つけるときに食べる食料(休息用食料)

避難が一段落した後にエネルギーを補給するための食料として休息用食料を考える。緊急の移動の必要性が薄れて食事の準備が多少なりともできる、また食事を一定の場所にとどまってできる場合にこういった食料が必要とされてくる。行動用食料と違って移動しながら食べること、短時間で食べることは難しいが、普段の食事により近いものを食べることによってより精神的に安定を得たり、バランスの取れた栄養を補給して健康を保持したりすることができる。ただし、避難時に持ち出して移動するため重量が大きいと負担になるから、軽量にしなければならない。

こうった食料には、アルファ化米の各種商品や、フリーズドライ製品、インスタント麺などがある。どれも乾燥した食品であり軽量である。調理に水が必要であるが、おおよそ湯をかけるだけであり簡便である。アルファ化米も赤飯や炊き込みご飯、ドライカレーにいたるまで多種多様な種類があるし、フリーズドライの製品も味噌汁やカレーなど幅広い。インスタント麺などは日常食べているものそのものであるから、食べなれている物が食べられる安心感は大きい。

休息用食料は軽いため、非常持ち出し袋に入れておくべきであるが、簡単であるとはいえ調理が必要であるから、水を得て加熱するための装備を同時に備えておくことを忘れてはいけない。

自宅や施設等に備蓄してほぼ移動しない食料(拠点用食料)

拠点用食料は、もはやお分かりになるだろうが、移動の際に持ち出すことはほとんど考えず、備蓄と栄養とだけを考えたものである。避難所や自宅などが無事なときにそこで消費する食事を賄うための備蓄として考えるから、重量や容積などはあまり考慮しない。

防災拠点などでは缶詰等の形で大規模な備蓄がなされ、炊き出しで使用することを前提としたパッケージとなっているものも多くある。家庭用では、そこまで行かなくとも缶詰なんかの形で備えている方も多いと思うが、水分を多く含む缶詰等の食品はあまり移動にむいておらず、車載するのでなければ移動時に持ち歩くのは効率が悪いため、拠点用の備蓄だと割り切られた方がよいかと思う。

災害備蓄用として設計されている商品も多くあるが、単に賞味期限(ないし消費期限)の長い食品であっても備蓄食料として考えることもでき、レトルト食品や乾物の類は調理の手間が少ないあるいは無い状態で食べることもできるから、意識的に多めに家庭に置いておいてもよいだろう。

食料を備蓄する際にはシチュエーションを想定することが重要

たとえば、非常持ち出し袋に缶詰の食品をたらふく入れたらどうだろう?きっと重みで持ち上がらないに違いない。帰宅用セットにアルファ化米を入れても水をいれて待っている暇は無いかもしれない。こんなナンセンスな食料の選び方をしないようにシチュエーションにあった食料を選ばなければならない。

出先で災害等にあったとき避難所や自宅にたどり着くまでに行動用の食料を、自宅等から脱出する必要が出たときに行動用に加えて休息用を、単にインフラが寸断されたときには拠点用の食料を、などのシチュエーションに合わせて合理的な組み合わせで備蓄するときの考え方として、今回の分類が役に立てばと思う。

 

日常の食を備蓄すべし

食料の備蓄は長期の被災生活等を見据える場合に大変重要となる。水は川の水を煮沸するとか雨水を集めるとか何かしらの方法で得ることができるが、食料は現代社会においては食料がある場所から持ってくるか、狩猟採集に頼ることとなる。混乱し、流通が停止した社会で食料を提供し続ける能力を持つ個人や団体はほとんど無く、狩猟採集は確実性が低く、また経験の無いものには危険も多い。

そういった不確実な食料源を頼るよりも、まずは食料を備蓄しておくことが安定した生存につながっていく。しかも、長期を見据えた生存戦略を持つことが肝心である。

まずは日常的に食べている食品を見直そう。米は切れていないか、砂糖の予備はあるか、小麦粉は・・・。そうしてみていくと、普段使用している食品のなかには中長期的に保存ができるものが結構ある。穀物(米・小麦等)は古来より保存がきくゆえに主食として用いられてきた。また、乾麺の類や乾燥食品はそもそも常温で保存できるように乾燥させられたのである。缶詰は災害用と銘打たなくとも保存食であるし、レトルト食品もそこそこの賞味期限の長さがあり常温保存できるため災害時には役に立つ。こういった具合に一般的な食品が(安売りで大量購入した等の理由であっても)備蓄されていれば災害時に安心である。

一般的な食品の中で特に災害用として気をつけて備蓄しようとするならば、おすすめなのはインスタント麺である。栄養バランスがある程度取れており、また調理が楽で単品でおいしいという優れたパッケージのインスタント食品であると思う。