戦うか逃げるか - 危機的状況の基本戦略

危機的な状況、災害時だけでなく暴漢・強盗などの危険人物と遭遇した際や熊などと遭遇した場合の対処の方針は2つに分けられる。すなわち、戦うか逃げるかである。

この戦うか逃げるか(fight-or-flight)というのは、動物の恐怖への反応として言われたもので、ストレスに対応するときの初期段階のものといわれている。すなわち、危機に瀕しての生存のために刻まれた生存戦略の一つといえるだろう。戦うものと逃げるものの2者に分かれるわけであるが、そうするとそれぞれの個体の生死はともかく全体としてはどちらかが生き残り、種全体は生き残ることができる。

これは生物を種の保存としてみる場合にはまったくもって合理的で良くできたシステムであるが、個々人の生存を確保するサバイバルを考える場合には邪魔になりうる本能ということもできる。生物の根源として刻まれている部分からのある種命令じみた感情は、時に焦燥感を煽り、理性から外れた不合理な行動に結びつきやすくなる。確実に生き延びるためには状況に応じた冷静で的確な判断と行動が求められるが、時に正常な判断が下せない事例が散見されるのはこういったストレスへの反応があるからである。

さて、そういったことで、非常時に冷静さを保つことは重要となってくるのであるが、生物としての本能といってもいいこの反応をどうやれば抑えることができるだろうか。実のところこれは知識だけではどうしようもないことである。もちろん、ある程度の心構えはしておくことはできる。非常時に焦りや不安から正常な判断ができなくなることを理解しておけば自分が正常でないことを自覚することは可能であろう。しかしながら、そこから冷静になり正常に復帰するのには時間がかかる。とはいえ、生存のためにある程度の対策はしておきたい。

知識だけでは不十分であるならば、経験をつむための訓練を行うという方法がある。非常事態への訓練はそういった個々人の冷静さを保つ点で効果がみこめるだろう。非常時における手順の確認と訓練は、同時に心の準備もさせるものであって、訓練の範囲内で行ったことであれば冷静さを保ってくれる効果がある。また訓練に無いことでも、十分な訓練をつんでおけば精神的ショックも少なくなり、思考能力の復帰は大幅に早くなる。

もちろん、訓練の手順に縛られるようなことがあってはならない。訓練は非常時に不合理なことをしないためにあるのであって、マニュアルを守るために訓練をするのではない。かつての震災で、学校において非難が遅れて被害が拡大した例がある。その一方で子供の感性が周囲の人間を助けた例もある。我々の感情は我々に必要があってもたらされるものである。感情のシグナルも冷静に分析し、正しい行動を取れるようにしたいものだ。