体の蓄えたエネルギーを知る

近頃ではメタボだのなんだのといわれ、体脂肪は嫌われている。カロリーオフだとかカロリーの吸収を阻害するだのといった商品も多く扱われ、とかく低カロリーに押さえて脂肪を増やさないようにしている。現代人の多くは太っているということを怠惰の表れとか自己管理の不十分だとみているが、近代以前では太っていることは健康と富の象徴であった。これは、食料が十分に手に入らなかったころの見方というとその通りであるが、実際に体脂肪は厄介者というわけではなく、本来は身を助けるためのものである。

体脂肪のそもそもの役割は摂取した余剰カロリーを蓄えることにある。古代では食料を得てもそれを保存する手段は十分ではなかった。人間が火を得ていなかったころはそもそも保存などという概念はほとんど無く、一部の木の実などが貯蔵できただけである。その後も燻製や塩蔵(塩漬けによる保存)に頼るのみの時代が長く続いた。そういう時代において、食料は保存にむくもの意外は短期で消費しきることが一番であった。そうすると、その日に必要なカロリー以上を摂取することになるわけであるが、そのカロリーは体脂肪の形で体に蓄えられるのである。こうすると、生きた細胞の中に保存されるのであって、腐ることもなくカロリーを保存することができる。野生動物にも備わっている生物の栄養保存能力としてこういった脂肪に変換する形でのエネルギー貯蔵が行われるのである。

天高く馬肥ゆる秋という言葉もあるが、一部の動物は食料が豊富に得られる秋に十分なカロリーを摂取し、冬を越えることができるだけのカロリーを蓄える。例えば熊は秋に魚や木の実などを多く摂取し体に蓄え、冬にその蓄えた脂肪を消費して生き延びるのである。体脂肪は同時に体の耐寒性を高める効果もあるため食料が少なく尚且つ寒い冬を乗り越えるために重要な機能であるといえよう。こういった機能があるゆえに、我々はサバイバル時に食料の調達を後回しにすることができる。一時的に食料が得られずとも、身についている体脂肪を利用してしばらくの間活動を続けることができるものなのである。

では、どれだけのカロリーが体に蓄えられているのであろうか。個々人の体脂肪の量は体脂肪計などを用いればおおよその量を把握することができる(あくまでおおよその量で厳密な量を測ることは難しい)が、それに体脂肪のカロリー量をかけるとそのカロリー量が分かる。体脂肪のカロリーは約7.2kcal/gである。体脂肪は純粋な脂肪とは違い細胞質の成分もあるから純粋脂肪の9kcal/gより低くなる。

体重60kgで体脂肪率20%の場合、その体脂肪量は12kgとなるわけであるが、そのカロリー数は86,400kcalとなる。これは成人男性の必要カロリーである約2500kcalでいうとおおよそ34日分のカロリーとなる。もちろん、これは概算であり、また非常時で活動が活発であったり寒さにさらされたりすると消費カロリーは増大する。重度の肉体労働を行うときの消費カロリーは男性で3400kcal程度である。また自衛隊でも3300kcalを摂取するようにしているという話もある。これらから言うと肉体に蓄えられるエネルギーは26日程度の活動に耐えられる。もちろん体脂肪がこの計算より少ない場合はより短くなる。

こういった事実からサバイバルの3つの3のうち食料の3、つまり3週間食料が得られないと危険であるという法則が導かれる。これは基本がそうなのであり、体脂肪が少ない場合はより短い時間で危険であり、食料の調達の重要度が上がる。もちろん、過剰な体脂肪の蓄積は高血圧や高脂血症引き起こす原因となり健康にリスクがあるが、体脂肪が少なすぎる場合、生物としての耐久度は低下しているかも知れないことをよく頭に置いて備えておくようにしよう。