頭を打っては安静にせねばならぬ - 脳震盪と死の危険

フィギュアスケートの選手、羽生結弦が他の選手と接触し、倒れたということがあった。その後、試合への参加が危ぶまれたが気合で持ち直して出場し、滑り終えた。感動しただとか言うむきもあるが、さて、サバイバル的にはどうか。これはまったくもって愚かな行為である。

脳震盪(のうしんとう)はかなり一般的で知っている方がほとんどであると思う。頭に強い衝撃を受けることで起きる症状のことであり、羽生選手の倒れた原因も脳震盪だといわれる。さて、それでは脳震盪のときに何が起きているか知っている者はどれくらいいるであろうか。そして、セカンドインパクトシンドロームという言葉を知っている者は?

脳震盪の後は安静にしなくてはならないが、これが頭を打った後、しばらくはくらくらとバランスが定まらないからだと思っている方はかなり多いのではないかと思われる。これは実のところ外側のかなり狭い一部を見ているに過ぎず、もっと重要なことのために安静にする必要がある。脳震盪時の脳の状態は思っているよりもひどいダメージを受けていると思っていたほうがよい。脳は柔らかな組織であり、衝撃で大きなダメージを負う。そのことは、より激しい衝撃である爆発をそばで経験したアメリカ兵が外傷を負っていないものの精神障害などを発生させるというような症例があり、実例を見た点からでも確かである。

爆発ほどの衝撃だと直接脳に物理的ダメージが及ぶであろうが、それほどの衝撃でない場合にはどうなっているのか。調べてみると、脳内の神経伝達物質が過剰に放出され脳内の代謝が異常になるようである。それにより、意識や記憶、場合によって感情や呼吸等にも影響が発生する。そして、その脳内代謝が正常に戻るまでには最低2週間はかかるというのである。それまでは安静にしておくことが望ましいのであるが、そこでまた大きな衝撃を受けてしまったらどうなるのであろうか。それがセカンドインパクトシンドロームである。

脳内の伝達物質が過剰に出ているところに、更なる衝撃が加わった場合、それが物理的損傷を加える程度のものでなくても更なる神経伝達物質の過剰放出を誘発する可能性が高い。そうなると、誤解を恐れず言うなら脳内が薬漬けの状態になる。脳が自分で発するからといって危険でないということはなく、麻薬などを大量に摂取したのと同様な危険があると思って良いだろう。すなわち死、そこまでいかずとも重篤な後遺症を伴う危険な症状に陥るのである。

であるから、脳震盪の後は絶対安静である。軽度なものであればさほどの症状もでないであろうが、立ち上がれなかったり意識を失うほどの脳震盪のあとは特に注意するべきだ。死にたくなければ最低2週間、また頭痛などのサインが見られればそれがおさまるまで無理をするべきではない。

とはいえ、サバイバルを考えると、安静にしておれない状況というのもあるから、そういう場合は二度目に受けたら死ぬものと思って慎重に行動するほかない。衝突はもちろん、高いところから飛び降りたり、細かな振動を長時間受けるのもよくないかもしれない。危険があると知ってやるのと知らずにやるのでは生存しやすさも違うだろうから意義はあるだろう。