妖怪と先人の教え

突然だが、一部の妖怪は実在する。しかもサバイバルと関係したような妖怪も結構居るのである。

何のことを言っているかというと、妖怪の起源の話である。そもそも妖怪は神話と同じように当時説明できなかった現象をわけのわからない存在に仮託していたものである。神話では現在でもはっきりしない世界の始まりや死後の話を説明しようとしているが、妖怪ではもう少し身近なものを説明しており、そのいくつかは科学的に解明されている物である。

そういう話で、妖怪は実在しているということを言ったのであるが、実は妖怪のなかには人間の体に襲い掛かる現象を扱っている物がいくつかある。これらの妖怪は昔の人が出会った危険な身体的状況の様子であり、それを知っておくことで危険な状況を回避することも出来るかもしれない。妖怪は数多く全てを知っているわけではないが、私が気づいたいくつかの例を紹介しよう。

まずは「塗壁」である。大変に有名な妖怪であるが、娯楽作品での登場が多くて実際がよく知られていない妖怪でもある。もともとは歩いている途中に「見えない」壁に行く先をさえぎられるという妖怪であるが、対処法も色々といわれている妖怪でもある。足元を棒で払うとか、タバコで一服するとかが対処法として言われているが、私の思うところではこれは歩みを止めてしばらくするとまた進めるようになるということであろうと思う。すなわちこれは運動しすぎの際に起こる「ハンガーノック」状態であるといえる。運動により極度の低血糖状態に陥ったときに起こりうる症状なのである。

このハンガーノックの状態をより的確に表現したのがヒダル神(ダル神・ダルとも)である。これも突然動けなくなる妖怪なのであるが、対策として米(多くは握り飯)を食べるというのがある。ハンガーノックからの回復は糖質の補給をすることで早くなる。また米の実物がなければ米という字を手に書いて舐めるだけでもよいとされるが、これは休憩を取れということだろう。おそらくその場合は糖質補給するのと比べてかなり回復は遅いはずだ。

妖怪は親が子に危険を教えるために作られたものも多いし、現代ではエンターテイメントのために作られたものもあるため実際に役立つものを見つけるのは困難だ。最近のゲームで妖怪を扱ったものがヒットしたおかげで妖怪自体は有名になったが、その裏に隠されている警告や不思議な現象は忘れ去られかけている。先人の文化を楽しむだけのものに捉えず、そのなかの知恵を探し、大事にしていきたいものである。

全国妖怪事典 (講談社学術文庫)